はじめに
行政書士事務所きりん代表の大塚竜一です。
今回は、実務上非常に難易度が高い「特定技能移行準備のための特定活動(就労可)」から、別の会社の「特定活動」への変更申請について解説します。
「移行準備中だったが、会社の都合で働けなくなった」 「別の会社でまた『特定活動』をもらって準備期間を作りたい」
こうした相談に対して、多くの専門家は「それはかなり厳しい」と答えます。 なぜなら、入管法上の原則が「NO」だからです。
しかし、当事務所では過去に、入管窓口で「原則できない」と言われた案件を、客観的な証拠を積み上げることで覆し、許可を勝ち取った事例があります。 決して簡単な道のりではありませんでしたが、その時の実例を交えて、「例外」が認められるための条件をお話しします。
1. 原則:「特定活動」のハシゴ(延長)は認められない
まず、入管の公式見解を確認しましょう。 出入国在留管理庁のウェブサイトには、以下のように明記されています。
ただし、本「特定活動(6月・就労可)」で在留中に、受入れ機関の変更により、改めて本「特定活動(6月・就労可)」への在留資格変更許可申請を行うことは、やむを得ない事情がある場合を除き、原則認められません。 (引用元:出入国在留管理庁ホームページ)
つまり、「A社で準備が間に合わないから、B社に移ってまた準備期間(特定活動)をもらう」ということは、基本的にはNGなのです。 この「特定活動」はあくまで例外的なつなぎのビザであり、延々と延長するためのものではないからです。
2. 例外:「やむを得ない事情」とは何か?
しかし、上記の規定には続きがあります。
※3 やむを得ない事情とは、申請人の責めに帰すべき事由によらずに、従前の受入れ機関での就労が困難となり、申請人が受入れ機関を変更することを希望するような場合に限ります。
簡単に言うと、「本人に全く落ち度がなく(会社の倒産や一方的な解雇など)、どうしても会社を変えざるを得ない場合」は許可される可能性があります。
「じゃあ、解雇されたと言えばいいのでは?」と思うかもしれませんが、入管の実務はそんなに甘くありません。
3. 「原則できない」からの許可事例
以前、私の元に一件の依頼がありました。
- 状況: 特定技能への移行準備中(特定活動)の外国人が、会社から雇い止めに遭った。
- 相談内容: 次の転職先は見つけたが、他の行政書士からは「特定活動から特定活動への変更はかなり厳しい」と断られた。
最初の壁:「本人の言い分」だけでは通じない
当初、ご本人は「会社が特定技能にしてくれると言ったのに、嘘をつかれた」と主張していました。 しかし、その主張だけを持って入管に行っても、窓口の担当者からは「原則としてできません」と言われました。
ただ、この時私が感じたのは、「絶対に無理だ」という拒絶ではなく、「『原則』ということは、裏を返せば『例外』もある」ということを暗に示唆しているようなニュアンスでした。
とはいえ、現状は厳しいものでした。なぜなら、会社側が入管に対して「本人の自己都合による退職」として定期報告を行っていたからです。 入管からすれば、「自分から辞めたのに、また別の特定活動をくれというのは虫が良すぎる」という判断になります。本人の主観的な主張だけでは、「やむを得ない事情」とは認めてもらえません。
「Messenger」と「勤怠表」に残された客観的証拠
そこで私は、諦めずに徹底的なヒアリングと調査を行いました。 会社側にも事情を確認したところ、「自主退職だ」の一点張りでしたが、本人と会社担当者との間の「Messenger(メッセージアプリ)」のやりとりが残っていることが判明しました。
そのログを全て確認すると、そこには詳細はお伝えできませんが、会社側が実質的に退職を促しているような内容が明確に残されていました。
客観的事実で「理由書」を再構築
私はこのメッセージ履歴の概要と勤怠表を用いて、感情論ではなく「客観的な事実」に基づいて理由書を作成し直しました。
- 会社側は自己都合と言っているが、実際のやり取り(証拠)は会社都合を示していること。
- 本人には在留を継続する意思があり、責めに帰すべき事由がないこと。
これらを論理的に立証した結果、入管は「やむを得ない事情」を認め、無事に再度の「特定活動」への変更が許可されました。 (その後、その方は無事に新しい会社で「特定技能1号」へ移行することができました)
4. 行政書士の役割は「翻訳」ではなく「立証」
このケースからお伝えしたいのは、入管審査において重要なのは「可哀想だ」という感情ではなく、「証拠に基づく事実」だということです。
正直に申し上げますと、この案件は許可を勝ち取るために相当な労力と時間を要しました。 単に書類を作るだけでなく、埋もれている証拠を掘り起こし、矛盾を突き崩す作業が必要だったからです。それくらい、この「特定活動から特定活動への移行」はハードルが高い申請なのです。
まとめ
「準備のための特定活動」中にトラブルに遭い、次の道が閉ざされそうになっている方へ。
原則はNGですが、もしあなたの手元にあるスマートフォンの中に、「やむを得ない事情」を証明する客観的な証拠(メッセージやメール)が残っていれば、道が開けるかもしれません。
「もう無理だ」と諦める前に、まずは一度ご相談ください。事実関係を整理し、可能性があるかどうかをプロの視点で判断いたします。
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